昔からガタロウは、水神さまの化身だといって、お祭りしている所もある。
狭山地方では『河太郎(がたろう)』といっているが、関東では『河童(かっぱ)』といわれている所が多い。
河太郎は川や池に住んでいて、水の中で夢中になったり、水ぎわで遊んでいる子供を水中に引きずり込んで、お尻から生血を吸うといわれている怪物である。
頭に皿をのせて、水がある間は不思議な働きをするが、水が無くなると意気地(いくじ)が無くなって幼児のようになるとのこと。
人間によく似た姿だが、手足に水かきがあり、背中に亀の甲らをつけているという。
私の昔の親類だと聞いているが、狭山池の北堤に『鉄砲市』という料理屋があった。
主人が鉄砲で鳥を打ち落とす名人で、池の上を飛んでいる鳥を打って、お客に見せるので大評判だったそうな。
その評判に続いて、西堤に理髪店があった。
夏の暑い日、子供が散髪してもらって、北堤を風に吹かれて気持ちよく中碑(なかひ)の近くまで来ると、その碑の上に腰をかけている見なれない男の子がいた。
見てみると、この子が片手で水をすくうようにすると、フナが飛び上がって来て、それらをとらえて、パクリと一口に食べた。
あまりの不思議さにしばらく見ていると、その子がこちらを向いた。
それが恐ろしい顔だったので、驚いて逃げて帰って、家の前で気絶して倒れた。
近くにいた母親がびっくりして、近所の人を呼ぶやら大騒ぎになった。
気がついて、泣きながらの話を聞くと、皆がそれは「河太郎に違いない」ということで、それから池のそばへ行ったら『ガタロウに尻を吸われるぞ』ということになった。
今は河太郎は人間になったのかも知れぬ。
血を吸われないように気をつけよう、ということである。
(民俗と民話 第五集)より